《第⒉*5回》【冷え】発熱という反応2️⃣
前回に登場した家族にも2年の歳月が流れます。その冬のある夕刻、5歳の長男に元気がありません。ママは、長男の額に手をあて発熱を確認しました。風邪かな?そういえばオヤツのの反応がイマイチだったね。いちごミルクなら食べてくれるかしら?でも、そろそろ夕御飯の支度をしなくっちゃ。
ということで、むずがる長男にいつものアニメを観せるけど、彼は入っていけないようです。ちゃんとすわってが辛そうで、横になってのテレビ。「ウインナーとチャーハンだよー」って誘っても、リアクションが重い。
このシチュエーションを、現場に行ってリポートしてみます。ただし、場所がその長男の肉体の中なので解説が必要です。翻訳しながらの、いわば同時通訳を試みますね。ドラマ仕立てです。
ここは、『江分利ボディー』という町工場。各種の部品を製作している、残業あり、場合によっては休日出勤もありの下町の会社です。夕焼けが、工場の屋根と土手をきれいに見せています。電話の音が聞こえました。オッ、新規のお客様の注文のようですよ。しかも大量です。
「明日の午後までに納品ということですね。はいッ。間に合わせます」
いきなりのオーダーはいつものことです。慣れるというよりも、慣らしてきたと社長はコメントしています。それがこの工場の特徴だしプライドらしいです。さあ、手際よくシフト替えが始まりました。
「はい、作業を止めてみんな聞いてェ。ゴミ処理のカッターを200と、ゴミ廃棄用のケースを650。残業よろしくネ」シフトチェンジも見事で、逆にオートマチックに見えたくらいです。
❶ 営業のAさんは、出先から即帰社して製造を手伝う。
❷ 経理のKさんもパソコンから離れて製造にまわる。
❸ 配送のH君も製造に移り、その後梱包を手伝う。
❹ その梱包のC君も、まずは製造。明日の午前は、H君と梱包。
❺ 社長は、無理のきく取引先には納期を待ってもらう。
❻ 社長の奥さんと事務のGさんは、残業時の弁当とお茶の準備。
夜も遅い土手から工場を眺めると、それは生きている肉体のようでした。一夜明けて次の日の午後、有限会社『江分利ボディー』は無事に納品を終えました。
さて、有限会社『江分利ボディー』のスタッフに敬意を表して、同時通訳から更に正確な翻訳を試みます。
① 長男にいつもの食欲がない。オヤツを残す。ウインナーとチャーハンへのリアクシ ョンが悪い。これは、❶の営業活動を中断した状態です。風邪のウイルスに対応す るために、敢えて新たに注文を取らない。つまり、食べない。咀嚼する、唾液を出 す、食道、胃、十二指腸、小腸、大腸などの消化活動に使われるエネルギーを、風 邪ウイルスに対応するためにシフトする。
② お気に入りのアニメなのに、観るのがおっくう。眼を使いたくない。筋肉に使うエ ネルギーの倹約のために、横になってテレビを観る。これは、❷❸❹❺の状態。 眼は肝臓と腎臓に直結していますが、解毒と排毒という免疫系の働きには欠かせない役目があります。風邪のひき始めという緊急事態です。いつものテレビは次週にしてもらいましょう。
❺の、お得意様への納期の延長のお願いです。さすがは社長ですね。❷の経理のKさんも、眼を酷使するパソコンから離れて手作業に加わりまし たし、❸のH君の配送という作業って、この場合は大事な血液を運ぶ循環器系の仕 事になりますから、テレビを観るための眼に血液を配送するよりも他にやることがあったのです。風邪ウイルスの相手をしてくれる白血球の製造部門の手伝いです。 いつやる?今でしょう!
❹の梱包は、さしずめ水分という形にして排毒する、発汗と排尿でしょう。夕方の長男の肉体には、まず白血球です。C君の本分の、たっぷりの寝汗と大量のオシッコ(両方とも水分で梱包)の出番は、もうちょっと後の夜 中。当面はリンパ球の増産にまわってもらいました。
❻は、あとから効いてきますよ。工場の照明や製作機器のモーターの電気料金、それに夜食のオニギリやお茶に使ったガス料金は、光熱費としてあとから請求がきますので。長男の夜中の発熱の内訳は、ウイルス退治のための白血球の増産で、彼の免疫系(町工場)はフル回転したということです。
以上、ほとんどの人から外国のような扱いを受けているジブンノカラダからのリポートを終わりますが、現場にいる私から一言だけ言わせていただきます。
ジブンノカラダの国籍を持っている人びとを見るにつけ、早く彼らの言語を理解できる正確な翻訳が待たれます。このままだと、ここはジブンノカラダは、抗原抗体反応という内戦状態に入らざるを得ません。ここのブレーンたちは、たびたび他からの介入を急ぎます。でも、果たしてそれでいいんでしょうか?今や、あの病院、あの治療所、あのクリニック、あの療法へとジブンノカラダ国籍の人たちが難民になっていく光景を目にします。近代になって、政治と医事のやり方が似てきました。爆薬と投薬も言葉の響きが何だか似て聞こえてしまいます。
241年前に、『ターヘル•アナトミア』を4年もかけて『解体新書』に翻訳した杉田玄白、前野良沢らの情熱はどこへ行ったのでしょう。だからと言って、彼らに代わる翻訳家の登場をただ待つのでは工夫が足りません。私たち一人ひとりが、ジブンノカラダの翻訳を試みる時がきています。まず手始めに、ジブンノカラダが控え目だけれどしっかりと発している言語に耳を傾けてみましょう。すぐには解らなくてもいいんです。私がそうでしたから。しだいに翻訳できるようになってきます。
これで、現地からのリポートを終わります。少し熱くなってしまいましたが、この発熱は悪くないと自負しています。以上、ジブンノカラダから興梠がお伝えしました。