これからの臨死体験 ⑵

母の臨死体験から約20年後のことです。3歳上の兄は32になっていました。その夜は、バンドのメンバーとスタッフが兄の家に集まっていました。製作中のアンプができたと兄が集合をかけたのです。私たちの音楽活動は作詞作曲はもちろんのこと、演奏も自作の音響機器を使うというユニークなものでした。その器材の開発者が兄だったのです。

「まるまる4日かかった」と兄は疲れたようにつぶやき、試作アンプのスイッチを入れました。兄の「まるまる」は、飲まず食わず眠らずということです。弟の私にはわかりました。さて、そのアンプに楽器のコードを差し込み、いざ音を出そうとするのですが反応がまったくありません。4人が見守る中、兄は一旦スイッチを切るとアンプのカバーを開けて回路の接続のチェックをしました。そして再度スイッチをいれて音出しを試していた時、その間20秒ぐらいはあったでしょうか、なんとアンプから煙が出始めたのです。慌てて誰かが電源を切りました。

何かの原因で発熱したのでしょう。くすぶっているアンプを見下ろしながら兄は言いました。絞り出している声でした。
「だめだ。失敗だ」
ガックリきている兄に、みんなもかける言葉もありませんでした。でもそこは弟、気休めの言葉でもいいやと言いました。
「またやり直せばいいよ。とにかく、飯でも食いに行こう」
「僕はいい。食べたくない」
「食べてないんでしょ?行こうよ。九州ラーメンはどう?」
「食欲がない。構わないから行って」

結局、兄を残して4人で食事に行こうとしていた正にその時、兄は昏倒したのでした。

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